文字サイズ変更 中 大 特大

民話

南禅寺へ豆腐を買いに行った話

 昔は宮島ではね、両手で提げるようになった豆腐籠というのがあったもんです。民俗資料館にも置いてありますが、普通は豆腐が2丁ぐらい入ればよい方の竹籠です、蓋が付いた。ところが、「天狗さんの豆腐籠」というのはそれを大きくした物で、差し渡しが1メ−トルもあるような、こんなに大きな籠だったそうです。で、三鬼さん(天狗)は氷砂糖か金平糖か豆腐が好きなんですね。それで、ある日のこと、三鬼さんの堂守りをしていらっしゃった人が、
「実は、今日は豆腐屋が休みでございまして、お豆腐を差し上げられないんでございますが」 と申し上げたところが、
「ああ心配するな。わしの背中に乗れ」
 と天狗さんが言われて、で、雲を飛び山を越し、着いたところが京都の南禅寺の前だったというんです。で、そこに着いて、
「しばらく待っておれ。その辺を見物してきてもよいが、夕方までには帰って来いよ。それまでは遊んで来い」
 と言われまして、京の町に出られたんです。ところが、宮島へ京都から呉服を商いに来る人が顔なじみの方で、バッタリ京都の町で出会ったわけです。
「オッリャ−ッ! こりゃ三鬼さんの堂守りさん」
「ヤヤッ! こりゃあ呉服屋さん」
「どうされましたか?」
「実は、三鬼さんに差し上げる豆腐がなくなって、きょうは豆腐を買いに南禅寺まで来たんです。帰りには豆腐を買うて帰らにゃ−いけん。天狗さんが『背中に乗れぇ』言われたんで、ここまで送ってもろうて、また宮島まで送ってもらうんじゃが・・・」
「そんな馬鹿なことがあるもんかい」
「馬鹿なことがあるかないか、それじゃあ、まあ今晩帰るから、あんたこれから宮島の方へ行くんなら、どっちが先に着くか、ひとつ宮島で会いましょう」
 というわけで、日暮れになり、南禅寺に戻りましたら、
「さあ帰るぞ。豆腐籠をしっかり持っとれよ」
 というようなことで、さあ天狗さんの背中に乗ったところが、もうその日の夜中前には宮島へ戻っていた。
 それから二、三日後に、都からテクテク歩いてきた呉服屋さんが堂守りを訪ねて来て、
「これは参った」と言ったという話しがございます。

広島民俗 第63号 話者 三宅定和